要点
世界中の消費者は驚くほど回復力があります。生活費が上昇し、地政学的な緊張が高まり、気候変動が深刻化する中、彼らのほとんどは物事に対して前向きな見通しを持っています。彼らは自分たちの生活をコントロールできていると感じており、将来に自信を持っています。彼らは必要なものを買うのが簡単だと感じています。そして来年の今頃、彼らは財政的に良くなることを期待しています。
EY Future Consumer Indexの最新版では、世界の種々の問題が多くの人々にとって、どれほど日常的なことになっているのかが、明らかになりました。個々の消費者にとって、状況は次の段階に進んだと感じられるようです。これが特に当てはまるのが、その時々を大切にし、シンプルな生活を望むようになっている、少数とはいえ無視できない消費者層です。
フューチャー・コンシューマー・インデックスの第14ウェーブでは、データインサイトを活用して、消費者の声で表現された、さまざまな視点から消費者が現在どこにいるのかを調べます。これにより、消費者の行動がどのように、そしてなぜ変化しているのか、そしてそれが彼らにサービスを提供したいと考えている消費財(CP)企業や小売業者にとってどのような意味があるのかについて、新しい視点が得られます。
「私が信頼するのは、仲間の意見です。ブランドの主張ではありません」
「クッキーが多過ぎます。しつこいトラッキング広告は逆効果です」
「企業は私のロイヤリルティを得られます。ただし、それが私に適している場合にかぎり限ります」
ソーシャルメディアが普及した結果、消費者は容易に、企業やブランドの情報を入手したり、はるかに多様な意見に接したりできるようになりました。このようにさまざまな意見がある中で、ソーシャルメディアインフルエンサーの影響力は強くなる一方です。CP企業や小売企業は、ソーシャルメディア上の交流に参加し、影響を及ぼすため、効果的で信頼が得られる方法を見いだす必要があります。
ほとんどの消費者は、有名だからではなく、制作したコンテンツのためにソーシャルメディアで人々をフォローしています。行動を促進しているのは、マイクロインフルエンサー、ニッチな専門家、オンラインコミュニティであり、有名人の推薦ではありません。これらはせいぜいブランドに対するマクロな見方を促すだけで、最悪の場合は本物ではないと見なされます。
オンラインのソーシャルメディア上で実施される製品デモや意見交換は、従来のマーケティングでは不可能だった方法で、購買行動に直接影響を与えることができます。誰もが助言や経験、レビューを共有する機会を得られるのです。人々はお気に入りのインフルエンサーの言葉を信頼し、彼らが推奨する製品を購入します。
多くのブランドが、自社の評判を管理することが難しく、自社が発信したいことが埋もれてしまうこの世界に適応しようとしています。しかし、消費者と対話できる関係になり、それを自社のイノベーション戦略やエンゲージメント戦略の策定に役立てることができれば、これはチャンスになり得ます。
情報の流れに耳を傾け、いつ、どのように関与するのが最善なのかを分かっている企業は、自社のブランドとその改善点について貴重なフィードバックを収集できるでしょう。
CP企業が消費者中心の企業になることを望むのであれば、インフルエンサーの経済圏と真に効果的な関係を築かなければなりません。大半の企業はこのような関係の構築に投資していますが、どのようにインフルエンサーを選択・管理し、そのパフォーマンスをモニターするかについては慎重を期す必要があります。自社のブランド、価値観、そしてターゲット層の期待に最も適合しているのは誰でしょうか?
ブランドは、少数の個人と契約するよりも、より多くのマイクロインフルエンサーと彼らが利用するプラットフォームに関与することで、マーケティング費用のリターンを最大化できます。しかし、関与する対象が増えれば、それに伴いリスクが増大します。そのため、ブランドや消費者の購買行動への影響を測定するため、インフルエンサーのパフォーマンスを新たに詳細なレベルで管理する必要があります。
多くのブランドは、デジタルマーケティング戦略のためにサードパーティークッキーを利用しています。その利用が縮小されていくのことに満足する消費者もいるでしょう。しかし、サードパーティークッキーの利用を縮小すると、ターゲットの絞られていないマーケティングによって、カスタマーエクスペリエンスや特典が関連性の薄いものになり、混乱を引き起こす恐れがあります。これは誰のメリットにもなりません。ブランドは、ターゲット層の認知を取得し、結び付きを維持するための、より良い方法を見いだす必要があります。
消費者を顧客とする企業がサードパーティークッキーの廃止によって受ける影響は、企業ごとに異なります。消費者に直接販売するチャンネルが初期段階にある、または存在しないブランドでは、マーケティングキャンペーンを支えるに足るファーストパーティーデータの取得が困難になると考えられます。大手小売企業の場合、より多くの消費者が自社ウェブサイトを訪れるため、より大量のファーストパーティーデータを保有している可能性があります。そのため、サードパーティークッキーからの移行が比較的容易でしょう。
実際、多くの小売企業がこれをチャンスと捉えています。そのような企業は、データを収集し、ブランド販売促進の機会を創出することで、独自の小売りメディアネットワークを確立し、それを他社に販売しようとしています。このようなネットワークは、ブランドにとって望ましい選択肢かもしれません。彼らは既に購買意欲のある消費者に販売することになります。つまりスクロールすることなく買い物をするのです。
小売企業がこのような新しい販売促進の機会を創出する中で、消費者から得ている信頼に注意を払う必要があります。もし消費者が資金力のある大手ブランドしか目に触れないようになっていると感じたとしたら、嫌気が差すことでしょう。消費者が大切にしているのは、自分だけのものだと感じられる選択肢です。
オンラインエクスペリエンスの最適化は重要ですが、それによって、効果的なデジタルマーケティングが必要とする量のデータを生み出すことはできません。ブランドにとって現時点の優先事項は、必要なデータの取得を目的とする買収やパートナーシップを戦略的に検討することです。小売企業は、ブランドとの収益性の高い長期的なパートナーシップ構築に向けて、リテールメディア機能に投資するべきです。
ファーストパーティークッキーが廃止されることはありません。デジタルトラフィックを拡大させ、消費者に対する理解を深め、消費者のニーズを核としてビジネスを展開することを望むのであれば、進化するファーストパーティークッキーの利用方法に習熟することが不可欠です。
全ての企業は、どのようにデータを使用しているのかを適切に開示し、オプトアウトを可能な限り容易にする必要があります。もし消費者が複雑過ぎると感じたら、データ共有に関する設定の変更方法を調べることをせずに、サイトを離脱するでしょう。データの共有に前向きな消費者にとっても、単純さは重要です。 そのような設定が消費者にとって容易でなければなりません。
ロイヤリティプログラムは依然として企業に人気がありますが、消費者のロイヤリティの性質は変わりました。ブランドや小売企業が、会員を引き付け、維持するには、具体的なメリットを提供する必要があります。感情的なつながりは、以前ほど売り上げを伸ばすものではありません。多くの場合、プログラムを成功に導くのは、ロイヤリティによるものではなく、提供される特典によるものです。
ロイヤリティプログラムは、取引としての性格が一段と強くなっています。消費者が会員になるのは、割引や好条件の取引を利用するためです。企業との関係に対するコミットメントは、受け取った直近の特典と同程度の強さしかなく、ロイヤリティとしては弱いといえます。
こうした中、ロイヤリティプログラムを成功に導くダイナミクスは変化しています。消費者が価値の交換が公正であると感じることが非常に重要です。消費者の関与を確保するには、ブランドや小売企業はマージンの削減を受け入れる必要があるかもしれません。それが、現在ロイヤリティと見なされるもの、そしてロイヤリティプログラムの成功により企業が得られるデータに対して支払わなければならない代償です。
消費者は自身のデータの共有に以前より前向きになっていますが、データ共有と引き換えに価値を求めています。一部の小売企業は、ブランドに自社のメディアネットワークへのアクセスを許容することで、このコストをカバーできるでしょう。これにより、ターゲットとなる消費者を絞り、関係を効果的に深められるからです。消費者を理解するために必要な消費者データと、それを販売時に提供するために必要な流通ネットワークがなければ、ブランドは、今以上に小売企業に依存することになっていくでしょう。
小売企業は、膨大で多様な消費者データにアクセスでき、新たな機会が生まれます。ロイヤリティプログラムを通じてさらに多量のデータを収集すれば、ブランドが特定の消費者層にリーチできるよう、割引の対象をさらに絞り、データから引き出したインサイトを活用することができます。
小売企業が詳細なデータセットを業績向上のために活用できる一方で、消費財企業は、ターゲティングとセグメンテーションに役立つ広範な行動データセットにアクセスできます。消費財企業が小売企業と協力すれば、包括的な行動データセットと明確な購入決定との間のスイートスポットを捉えることができるでしょう。
データセキュリティへの懸念が高まる中、小売企業も消費財企業も、消費者から信頼を獲得しつつ、このような機会をつかまなければなりません。例えば、サイバーセキュリティに投資し、データ保護に真剣に取り組んでいることを消費者に知らせるべきです。また、自身のデータの共有により得られるメリットを、消費者が容易に理解できるようにする必要があります。
消費者は、誰のどのような意見に耳を傾けるかを、より意識的に決めるようになっています。また、自分の時間とお金と引き換えに同等のものを要求する権利があると考えています。消費者は依然として、デジタル体験や店舗での買い物を楽しんでいますが、自分が求める条件、 つまり、休息時間やプライバシーが尊重され、データやロイヤリティに対する公正な価値交換が行われることを望んでいます。小売企業やCP企業は、AIなどのテクノロジーの活用により、このようなニーズの一部は満たせるでしょうが、人間的な対応がこれまで以上に重要になっています。